樹木葬を選ぶ前に知っておきたいこと
新しいスタイルのお墓・樹木葬
樹木葬は、少子化や人口の都市部への集中といった社会の変化や供養の多様化を背景に、近年注目を集めている埋葬方法の一つです。従来のお墓のイメージを一新する「緑のなかで眠る」「自然に還る」というイメージや、「子供にお墓の管理の負担をかけたくない」という方も多い現代の事情に添った供養のスタイルが好まれています。しかし、新しいタイプのお墓・供養のかたちであるからこそ、人気だという理由だけで安易に樹木葬を選んでしまうと「こんなはずではなかった」と後悔するケースも懸念されます。
樹木葬を選ぶ前に、まずその基本的な部分をしっかり理解することが重要です。
樹木葬の基礎知識
近代日本における樹木葬の始まりは、1999年に岩手県の知勝院というお寺で始まったといわれ、2010年代の後半に入ってから樹木葬の需要が急増しています。同様に人気の上昇しているお墓に「納骨堂」がありますが、樹木葬は "自然に還る" というイメージがより好印象を持たれ、2023年以降、新規お墓購入者の過半数が樹木葬を選ぶほどに一般的なものとして台頭してきています。(鎌倉新書調べ「お墓の消費者全国実態調査」)
概ねの共通点としては、次のようなものがあります。
・樹木や草花が墓域のメインで、大きな墓石がない
・お墓の跡継ぎが要らない永代供養墓
・宗旨宗派を問わず、檀家にならないでも良いことが多い
その他、墓石により自分らしさを表現できるデザインの彫刻が施せるものや、ペットと一緒に入れるものなど、新しいかたちのお墓であるがゆえに旧来のお墓の様式に捉われないものも多くあります。
現在、樹木葬は「里山型」「公園型」「庭園型」と3つに大別されていますが、樹木葬自体の定義は曖昧であるため、いざ樹木葬を検討しようといくつかの樹木葬墓地を見学された方の中には、樹木葬霊園ごとにその雰囲気や仕組みが大きく異なることに驚かれる方もいます。
詳細は→『樹木葬とは?その特徴や種類、注目されている理由についてわかりやすく解説!』
樹木葬で後悔する主な事例
自然に還れない!?
樹木葬の納骨方法にはいくつか種類があります。たいていの方は「樹木葬」と聞くと「土に直接埋葬する」というイメージを持たれますが、実際はそうではないものもあります。希望する埋葬方法と違った、ということにならないよう、事前の確認が必要です。
また、多くの樹木葬は、最初から、あるいは一定の期間後に合祀(合葬)となる仕様になっています。合祀された場合、ご遺骨は他人のご遺骨と混じり、先々で改葬したいと思ったさいにも取り出すことができません。そういった点で問題が発生しないかも注意してください。
季節や管理状況よっては寂しい風景になる
草木は自然のもの。冬場は葉が落ちて寂しい印象になることがあります。 ただ、それも季節の巡りを感じる要素として好ましく思うこともできます。
問題なのは、霊園の管理状況によっては植栽が荒れた状態で放置されてしまう懸念があるということです。 契約前に管理体制や清掃の頻度などを確認し、信用できる管理者かどうかを見極める必要があります。
現状の景観や環境が維持されるとは限らない
樹木葬は草花や木々によって景観が作られています。当然、植物は成長し姿を変えていき、それが自然葬の魅力の1つでもあります。
管理がしっかりされていたとしても、木が枯れてしまったり、成長し過ぎたために伐採せざるを得なくなること、また、場合によっては、植栽の生育の影響によってお墓の位置自体を移動する必要が発生することもありえます。
自然を利用する以上、必ずしも人間の思うとおりにはいかない可能性もあると心得る必要があります。
アクセスが悪い場合はお墓参りが億劫になる
自然豊かな環境が特徴の樹木葬だからこそ、山の中や、山裾に近い場所に設けられることも少なくありません。
現地までのアクセスはもちろん、霊園についてからの移動ルートに坂や階段が多くないか、駐車場や入口から墓所までの距離なども、お参りの利便性に大きく影響します。
今は足腰に問題がなかったとしても、高齢になったら、あるいは病気で身体を動かしにくくなったりしたら、どうでしょうか?
また、自家用車を運転出来なくなった場合に備えて、公共交通機関が通っているか、公共交通機関がなければシャトルバスなどの運行があるかなどを調べておくのが良いでしょう。園内の段差やバリアフリーについても確認しておくと安心です。
遠方からお参りに来る方がいる場合にも、お墓の立地には配慮が必要です。
思っていたよりも費用が高額になった
樹木葬は墓石がない、あるいはあっても比較的小さめな墓石である為、従来のお墓に比べて費用は抑えられる傾向にあります。
また、一般墓のように「使用料+墓石代」という設定ではなく、契約時に永代供養料(永代使用料)を納めれば他の費用は一切不要、年間の管理費がかからない仕様のものもあります。
しかし、樹木葬ごとに仕様が大きく異なるほか、次のような要因も影響して、必要な費用には非常に幅があります。
- 埋葬方法は個別か、合祀か
- 墓石や銘板があるか、ないか
- 管理するお寺の檀信徒が旧来納めて来たお布施の相場
- 地価や交通アクセスの良さ
そのため、最終的な納骨人数が多い場合には、想定よりも費用が高くなる可能性もあり、一般墓と大差ない金額がかかることもあります。
金額を重点事項として選ぶ場合には、最終的に何名で利用するか、どのくらいの期間利用するのかを予め把握したうえで検討する必要があります。
お参りの実感が湧きにくい
墓標がないタイプの樹木葬の場合、納骨された場所がはっきりしないことがあります。
樹木葬は「墓石の代わりにシンボルツリーを植える」という説明をされることも多くありますが、一人(あるいは1家族)ごとに1本の木が植えられるタイプの樹木葬は稀です。実際はどこに埋葬されているのか正確な位置が分からないこともあり、しかも遠くから手を合わせるだけ、というお参り方法になるケースも多くあります。
こういった場合、人によっては、どこに向かってお参りをしたら良いのかと戸惑い、供養の気持ちを満たせなくなってしまうことも懸念されます。
アンカレッジの樹木葬のような、個別の墓標のあるタイプの樹木葬であれば、そういった戸惑いは少ないようで、アンカレッジの樹木葬でご契約された方のお話を伺うと「一般的なお墓をお参りするのと感覚は変わらなかった」という方が多い印象です。
ご親族にその点を気にされる方がいる場合には、個別の墓標タイプをお選びください。
引っ越すことになっても改葬できない
樹木葬は、始めから他人と一緒の区画に合祀するものや、始めは個別埋葬であっても一定期間が過ぎると合祀されるものが主流です。 合祀され他人と遺骨が混じった状態となれば、特定の故人のご遺骨は取り出せなくなります。
お墓を契約する際、家からの近さを重視する方も多いですが、先々で転居することとなった際などに、お墓も転居先の別の霊園に移す可能性がある場合は、樹木葬は避けた方が無難です。将来的に改葬が必要になる予定がないか、ご家族とよく話し合っておきましょう。
親族とのトラブル
「お墓は大事に受け継いでいくべきもの」という意識が高い方であったり、従来のお墓とは雰囲気や埋葬方法、お参りの仕方などに今までのお墓とは違いがあることに違和感を感じる方の場合、樹木葬に対して難色を示すこともあります。
骨壺を使用しない合祀タイプの樹木葬だった場合、後から親族と意見が合わずトラブルが起きたからといって改葬することはできず、親族間の解消できないわだかまりとなることもありえます。
樹木葬は個人や1家族単位でのお墓になりますが、お参りの点では親族にも関わってくるものです。
自分だけの判断で決めずに、周囲の理解を得てから契約を進めるようにしてください。
粉骨(パウダー加工)が必須なこともある
土への還りやすさや遺骨の省スペース化を理由として、ご遺骨を細かく砕く粉骨(パウダー加工)を必須としている場合があります。
粉骨に抵抗がある場合は、粉骨が必須でない樹木葬を選ぶか、別の埋葬方法を検討する必要があります。事前に確認をしましょう。
承継することができない
永代供養のついている樹木葬は、世代間でお墓を受け継げず、基本的には1代限りのお墓になります。近年は「承継者(後継者)が要らない」という点をメリットと捉える傾向が強く、樹木葬人気の後押しになっています。
しかし、お墓の承継者が不要なことがメリットになる一方で、家のお墓を代々受け継ぎたい方にはお墓を遺せないことがデメリットになります。
個別の墓標がある樹木葬であっても、個別区画を利用できる期間には制限があることがほとんどです。 家系の繋がりを大事にし、子孫に引き継げるお墓を希望する場合は、一般墓の方がおすすめです。
埋葬人数に制限がある
個別埋葬期間が設けられている樹木葬に限ったことではありますが、永代供養という都合上、多くの樹木葬では区画ごとに人数の上限が決められています。
上限人数は霊園や区画によって様々ですが、概ね4名以下のところが多く、5名以上入れるものは少数な印象です。
大所帯での家族みんなで1つの墓を希望したり、2世代以上で1つのお墓に入ることを希望される方の場合は、別の埋葬方法を検討する必要があるかもしれません。
樹木葬を選ぶときの注意点とトラブル対策
必ず現地の見学をする
ここまでに説明したとおり、樹木葬は従来の一般墓とは大きく違うだけでなく、「樹木葬」のなかでも雰囲気やお参りの仕方などは霊園ごとにさまざまです。
ですので、契約を決める前に必ず事前の見学をしてください。
Webなどで資料請求できる霊園も多くありますが、パンフレットを見たとしても、そこに紹介されているのはごく一部の情報だけです。
写真や言葉だけでは伝わらない空気感や雰囲気、実際の管理の様子や掃除が行き届いているかなどは、現地に行ってみないと分かりません。
周囲の自然環境はもちろん、墓地のレイアウトや日当たり、風通しなど、ご自身にとって心地よい場所かどうかを五感で確かめることが重要です。
担当者の説明を受ける
樹木葬は料金体系も霊園ごとに大きく異なります。
そのため「自分の理解が間違っていた」「Webサイトに載っている価格以外にも発生する費用があった」などの事態もあり得ます。
また、樹木葬への納骨の仕方やお参りの仕方などのシステム面はもちろん、管理する寺院とのお付き合いについて条件が決められている場合があります。
例えば、納骨の際には法要をしないといけないのか、などです。
そういった詳しいことは、事前に現地で担当者に確認をしておかないと、契約のあとで後悔する原因になりえますので注意が必要です。
また、契約書や約款・規則といったものが用意されているかも大事なポイントです。後々で「そんなこと聞いてなかった」ということにならないように、契約内容をしっかりと把握し、気になる点があれば必ず質問して確認するようにしてください。
事前に親族の了承を得る
ご親族から難色を示されることのあるポイントはいくつかありますが、特に「樹木葬で良いか」という点と「宗派の違い」は大事なポイントです。
従来の一般墓に慣れた方だと、墓石がなかったり、小さな墓石しかない樹木葬は、お参りの際に戸惑いを感じることもあります。
また、宗教宗派不問であることが樹木葬人気の一因である一方で、宗派に拘りを持たれる方もまだまだ多くいらっしゃいます。
それぞれのご信仰については家族であっても意外と触れない部分なことも多く、少し遠い親族であれば尚更です。
詳しい教義は知らなくても、「代々の家の宗派を蔑ろにするのが躊躇われる」「(宗派によって読経の内容が違うので)なんとなく聞き馴染みのあるお経の方が落ち着く」と話される方もいますので、安易に「今までの菩提寺の宗派と違っても親族は気にしないだろう」と決めつけるのは避けた方が無難です。
ご契約の前に、申込を検討しているお墓の種類やお参りの仕方、管理するお寺の宗派などをご親族に必ず説明するようにしてください。
後悔しないためのチェック項目6つ
ここまで、後悔のもとになるポイントについて説明してきました。
では実際に樹木葬を選ぶ際には、どのような点に注意すべきでしょうか?
次の点に注目してチェックしてください。
アクセスの利便性
- 公共交通機関でのアクセスは問題ないか?
- 駐車場はあるか?
- 霊園内の移動に不便はないか?
足腰の悪い方が来る可能性、遠方から来る方がいるか...どのような方がお参りに来られるかも考慮して場所を検討してください。
最終的な費用の総額や、費用の内訳
- パンフレットに記載金額以外に、墓所に関して発生する費用はないか?
- お寺に別途お布施は必要か?
複数のプランが用意されていることもあり、選択するプランによっても費用が変わってくる場合があります。契約時点だけでなく、先々で必要になる費用全体を確認してください。
参拝方法
- 個別の墓所の前で手を合わせられるのか、離れた場所からお参りするかたちか?
- お線香やお花は供えられるのか?
- お参りできない日や時間はあるか?
ご親族の望むお墓お参りのスタイルに合っているかの確認が必要です。
宗旨宗派の制限や、管理する寺院との付き合い方
- 契約にあたり、宗旨宗派の制限はあるのか?
- お寺での法要の義務や、檀家に準じる務めなどはあるのか?
お寺は宗教上の意義のもとに霊園を設置運営しています。そのため、樹木葬を利用するうえで、ある程度の義務や制約が発生するのは当然とも言えます。
そういった部分を一律に不要・不便なものと捉えるのではなく、説明をうけたうえで納得して契約するかを判断してください。
管理の状況
- 霊園の管理や清掃状況は整っているか?
- 利用者が行うべきこと、あるいは禁止事項はあるか?
管理するお寺と霊園の場所が離れている場合など、管理の目が行き届かないこともあります。
また、成長し、あるいは枯れる可能性もある樹木や草花に対し、どのような手入れがされるかも気にしたい部分です。
自然相手のことは必ずしも人間の想定どおりにはいきませんが、何十年と長く利用する可能性があるお墓だからこそ、どの程度の維持管理がなされるかは重要なポイントになります。
また、管理上、お花やお線香を供えることに制限があることもあります。利用者が守るべきマナーや負担についても確認をしておきましょう。
親族に相談をして了承を得る
- 代々で受け継がないお墓であること、樹木葬ならではのお参りのスタイル、元々の菩提寺と宗派が異なる場合などに、心情的に抵抗を感じないか?
一存で決めるのではなく、関係する方々の意見も確認しましょう。話し合いをすることで、自分では気づかない視点での意見が聞けることもあります。
後悔しないためのお墓の探し方、樹木葬の選び方-まとめ
今や一番人気となった樹木葬ではありますが、だからといって全ての方に樹木葬が合っているわけではありません。従来のような、代々で受け継いでいくお墓の方が適しているケースも当然ありますし、納骨堂のような屋内型のお墓ならではの利便を重視する方もいるでしょう。
樹木葬は、あくまでもお墓を探すなかでの選択肢の一つです。
まずは樹木葬に対する知識と特徴に対する理解を深め、ご自分に合った選択か否かを見定めることが大切です。